認知症対策

「父の言葉がわからない」-認知症の父とのコミュニケーションに悩んだ日々

認知症の人とのコミュニケーションどうしたらいい?

認知症の家族とどう話したらいいか、悩みますよね。
わたしもまさに、そこがいちばんの壁でした。

 

父が認知症と診断されたのは、70代半ば。
それまで元気に散歩していたのに、急に「家に帰る」と言い出したり、「あの人は誰だ」とだれもいない場所を指さしたり…。
会話がどんどんかみ合わなくなって、「どうしてこんなことを言うんだ?」って、わたし自身、混乱することが多くなりました。

 

■ 正論では届かないこと、たくさんありますよね

最初の頃は、なんとか理解させようとしてました。
「違うよ、ここが家だよ」
「お母さんをの命日忘れるなんて、冗談だろ?」
そうやって、“事実”で説得しようとしていたんです。

 

でも、それが逆効果でした。
父は混乱して怒り出すこともあるし、悲しそうな顔をすることもあって。
あるとき、「オレは頭がおかしくなってしまった」とポツリと漏らしたんです。

 

その一言で、わたしの中で何かが変わりました。
ああ、父は“わかろうとしてない”んじゃなくて、“わからなくなっている”だけなんだなと。

 

■ 「会話」じゃなくて「気持ちのキャッチボール」なんですよね

それからは、伝える内容よりも、“どう伝えるか”を意識するようになりました。

 

たとえば、父が「今日はもう晩ごはん食べたか?」と同じ質問を5回してきたときも、
「さっき一緒に食べたよ。おいしかったね」って、穏やかに返すようにしました。
すると父も、「ああ、そうか…そうだったな」と、にっこり笑ってくれるようになったんです。

 

本当の意味で会話が成立していなくても、気持ちのやり取りはちゃんとできる。
それがわかってからは、ずいぶん心が軽くなりました。

 

■ とにかく否定しないこと、大事ですよね

認知症の方は、自分の世界の中で生きていることが多いです。
「今日は会社に行かないと」と父が言ったとき、「何を言ってるんだ」と言いたくなりましたが、
「そうだね、今日は大事な日だったよね」と、一度受け入れてから話すと、スムーズに気持ちが落ち着くんです。

 

否定すると、相手は「自分がおかしい」と責められたように感じてしまう。
だからこそ、「そう思ったんだね」と、まず共感から入ること。
これ、ほんとうに大切だと思います。

 

■ ゆっくり、はっきり、短く

認知症の方との会話では、話し方も工夫が必要ですよね。
わたしはこんなふうに気をつけていました:

 

一度にいろいろ言わない
 →「ごはん食べた? お風呂どうする?」ではなく、まず「ごはん食べた?」だけ聞くように。

 

声のトーンを落ち着かせる
 →焦って早口になると、不安がうつってしまうんですよね。

 

目を見て、表情で伝える
 →父は言葉がわからなくても、わたしの顔をじっと見て「怒ってるな」「うれしそうだな」と感じ取ってくれていた気がします。

 

■ 「わからなくなった父」ではなく「変わらず大切な父」

たしかに、認知症になると、会話が思うようにいかないことも増えます。
でも、それは「父じゃなくなった」という意味ではないんですよね。

 

昔と違う父だけど、父の中には変わらない部分がちゃんとある。
笑った顔、照れたときのしぐさ、急に真顔になるときのクセ??全部、わたしが知っている父そのものなんです。

 

言葉のやり取りがうまくいかなくても、心のやり取りはできる。
それに気づいたとき、わたしは「伝わらなくても、伝えよう」と思えるようになりました。

 

■ おわりに

認知症の家族と会話するって、本当に根気のいることですよね。
こっちの気持ちが届かないとき、イライラしてしまうこともあるし、投げ出したくなることだってあります。

 

でも、そんな日々の中でも、ふとした瞬間に笑い合えたり、手を握ったときのぬくもりに救われることもあるんです。
それだけで、「今日もがんばってよかったな」って思えたりするんですよね。

 

大切なのは、完璧なコミュニケーションを目指さないこと。
正確に伝わらなくても、想いはきっと、届いている。

 

同じように悩んでいる方へ、わたしの経験が少しでもヒントになればうれしいです。

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