「本人の“こだわり”どうする?」-認知症と“困った行動”の受け止め方
「テレビのリモコンの置き位置」
「ダイニングテーブルの上の新聞」
「寝るときの枕の高さ」
父が認知症と診断されたあと、こうした“こだわり”がどんどん強くなっていきました。
正直、はじめは「なんでこんな細かいことを…」と戸惑いましたよね。
というか、イライラしてしまったこともあります。
でも、介護生活が進むうちに、少しずつ「これは“本人なりの安心”なんだな」と思うようになっていきました。
■こだわりには“理由”がある
たとえば、父がこだわっていた「新聞を元の位置に戻す」こと。
本人にとっては“日課”だったようなんです。
以前からから毎朝、同じ位置に座って新聞を読むのが習慣で、それができることで一日が始まるという安心感があったみたいです。
だから、それを他の場所に置かれたりすると、ものすごく不機嫌になる。
「そんなことくらいで…」と思ったこともありましたけど、よくよく考えれば、わたしにだって「こうじゃないと落ち着かない」ってこと、ありますよね。
自分にもあるこだわり。
だから父の“譲れないこと”にも、意味があったんだと思います。
■やめさせようとすると、うまくいかない
あるとき、父が「冷蔵庫に薬をしまう」という行動にハマった時期がありました。
理由を聞いても「このほうが長持ちする」とのこと。
もちろん、薬は常温で保管するように指示されていたし、冷蔵庫に入れるのはよくない。
だから「冷蔵庫はダメ」と何度も伝えたんですが、何回言ってもやめてくれませんでした。
それどころか、注意するたびに父の表情が険しくなって、しまいには口もきいてくれなくなったんです。
こっちは心配して言ってるのに、逆に険悪になると辛い。
このとき学んだのは、「正しさを押しつけても、相手は動かない」ってことです。
その後は、冷蔵庫に入れる用のダミーの薬袋(中には小さいグミキャンディを入れた)を用意し、飲ませるものは戸棚にしまって置くようにしました。
いつの間にか満足したのか、薬袋を冷蔵庫に入れることはなくなりました。
つまり、本人の“感覚”に寄り添うだけで、変わってくれることもあるんですよね。
■こだわりを“守る”ことで、落ち着くこともある
父には「枕の高さを毎日調整する」という習慣もありました。
枕の下に決まったフェイスタオルを1枚、その上に小さなハンドタオルを重ねる。そして枕。
ある日わたしは何の気なしにそのタオルを洗濯しました。
替わりにタオルを2枚枕元に置いておきました。
するとどうも落ち着かない様子で何度も何度も枕やタオルをいじるようになり、まったく寝ない。
しかもずっと不機嫌。
最初は原因がわからなかったのですが、翌日に乾いたタオルを渡すと満足そうに枕元に。
その夜は枕置きルーティンをこなし、すぐにぐっすりと寝るようになりました。
こだわりって、無理に辞めさせてはいけないんだなと感じました。
むしろ“守ってあげること”が、安心につながるんですよね。
■こだわりに“巻き込まれすぎない”ことも大切
もちろん、すべてのこだわりに毎回つきあっていたら、こっちが参ってしまいます。
「タオルの色が違う」「しょうゆの置き場が違う」など、正直、細かすぎるこだわりもたくさんありました。
だから、全部を真面目に対応しなくていいと思っています。
大事なのは、「これは本人にとって大事なことか? それとも気の迷いか?」を、ゆるく見分けること。
そして自分が疲れすぎないように、ほどほどに付き合うこと。
自分が倒れたら元も子もない。
介護する側も、無理なくできる範囲で寄り添えばいいと思います。
■まとめ:こだわりの背景には“本人なりの秩序”がある
認知症になると、記憶や判断力がゆらぎます。
その中で本人なりに“世界を整えたい”という気持ちが、「こだわり」となって表れているんじゃないかと思うんです。
だからこそ、頭ごなしに否定するんじゃなくて、少しだけ立ち止まって「どうしてそうするんだろう?」と考えてみる。
その“余白”があるだけで、介護は少し楽になります。
「こだわり」は面倒なこともあるけれど、それをどう受け止めるかで、親との関係も変わっていく。
わたしは父と暮らすなかで、そんなことを感じました。