認知症対策

ついにテレビの操作もできなくなった

つい最近、とうとうテレビの操作ができなくなったようだ。

 

親父殿は昔から筋金入りの巨人ファンだった。

 

わたしが小学生だったころ、テレビの前で巨人戦をかたずを飲んで見守っていた親父殿。
負け試合の日はそれはもう機嫌が悪く、家中にピリッとした空気が流れるほどだった。

 

ところが、ここ最近。
わたしが仕事から帰ってくると、テレビがついていないことが増えた。

 

巨人戦が放送されている日でさえ、部屋は静まり返っている。
おかしいと思い、休日に家にいるときに様子を見てみると、ある問題が浮かび上がった。

 

ある日の夕方。
親父殿が突然テレビに向かって「なんでお前がそこにいるんだ!」「出ていけ!」と怒鳴り出した。

 

なにかと思って駆け寄ると、テレビ画面に自分の姿が反射しているのを“知らない他人”と勘違いしていた。

 

いま使っているテレビは室内の照明の条件によっては暗いシーンになると自分の姿がはっきりと反射する。

 

というものウチはいまだにブラウン管テレビなのだ。
さすがに地デジ等には対応しているブラウン管の最終期に発売された結構いいやつ。

 

理由はテレビを替えると親父殿が操作できなくなるのではないかと、使い慣れていることを優先していたからだ。
しかし、いまはそれが裏目に出てしまった。

 

鏡や窓は反射対策したが、テレビまでは気が回らなかった。

 

親父殿はそれを「知らない人がいる」と思い込み、テレビの裏に回って確認したり、リモコンをガチャガチャといじったり…。
そのうちに電源を切ってしまい、再度つけることもできず、テレビが観られなくなる。

 

どうしたらまた安心して観られるか?
シーズンになると巨人戦を毎日の楽しみにしていた親父殿。
それを失ったら、きっと心が沈んでしまう。

 

何より、「観たいのに観られない」というストレスは、こちらにも伝わってくる。

 

そこで、東芝レグザ 43M530Xという液晶テレビを購入した。

 

仕事帰りに家電量販店に出向き、反射を確認したり、リモコンのボタン配置をチェックし、かつすぐ持ち帰りができるもの。
すべての条件をクリアしたのはこれだけだった。
さすがに43インチのテレビはサイズ的に電車で持ち帰るのはしんどかったが。

 

でもこのテレビに変えて、明らかに変化があった。

 

まず大きかったのは、画面への映り込みが少ないこと。

 

親父殿の姿が映っても、反射がやわらかく、認識しづらい。
そのため「誰かがいる」と勘違いして怒鳴ることがほぼなくなった。

 

地味に便利なのが視聴予約ができること。

 

あらかじめ巨人戦の放送を「視聴予約」しておくと、どんなチャンネルを観ていても自動で切り替わるし、万が一テレビを消していても、勝手に電源が入り、番組が再生される。
親父殿は「あれ、始まったか」と言いながら、ソファに座ってじっと画面を見つめるようになった。

 

毎日、ソファーに座り、テレビの前に向かっていた親父殿の姿。
それが戻ってきた。

 

最近は、わたしが帰宅しても機嫌が悪くないことが多くなった。

 

静かに巨人戦を見て、時には「今のはアウトだろ」と昔のように怒ったり喜んだりしている。
その表情を見ていると、ほんの少しだけ、前の生活が戻ってきたような気がする。

 

「できなくなったこと」にどう付き合うか。
認知症になると、できていたことが突然できなくなる。

 

それを責めてもしょうがないし、直そうとするのも違う気がする。
わたしにできるのは、「どうしたら今の状態でもできるようになるか」を一緒に考えること。

 

今回のテレビの件も、ほんの少しの工夫で、親父殿もわたしも、ちょっとだけ楽になることができた。

 

今夜も、静かな部屋で野球中継の音が流れている。
「なんではやくピッチャー交代させないんだよ」
親父殿のそんなつぶやきを聞きながら、わたしはようやく一息つける。

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