ついに親父殿が夜中に家を出て行ってしまった
その日、いつものルーティンをこなし、ようやく布団に入ったAM2:00。
ふと物音で目が覚めて、2Fからリビングに向かうと玄関の扉が全開になっていることに気づいた。
「あれ?。。。?」
寝ぼけながらも不穏な空気を感じ、急いで外に出ると、父がゆっくりと歩き出すところだった。
「おい、どこ行くんだよ!」
慌てて引き留めるとると、父はこう言った。
『家に帰らなきゃいけない』と。
その言葉に、思わず息が詰まる。
最近は日中にもリビングと玄関を行ったり来たり。落ち着かない様子を見せていた。
でも、ついに夜中に外へ出てしまった。
これはもう、笑い事では済まされないと、心底思った。
その日はなんとかなだめて家の中へ連れ戻したものの、わたしはもう眠ることができなかった。
そして数日後の夜。
ガチャっと寝ているわたしの寝室のドアが開いた。
びっくりして起きると、親父殿が寝室の入り口に立っている。
その姿はいつもの外出着で、ショルダーバッグを肩にかけすでに外履きも履いている。
時計をみるとAM3:00。
親父殿は言った。
「家に帰らなきゃいけないと思うんだけど。。。」
またきてしまった。。。
わたしは寝起きにも拘わらずヘンに冷静になっていた。
「ここが家だけど、どこに行きたいの?」とわたしがたずねると、親父殿は「家に帰らなきゃいけない」と繰り返す。
勝手に家を出ることをせず、わざわざわたしを起こしにきたのは親父殿の中でも葛藤があったのかもしれない。
そう思うと怒る気にはならなかった。
しっかりGPSがショルダーバッグに入っていることを確認すると、わたしは親父殿の好きにさせてみることにした。
玄関で「気を付けてね」と声をかけると、親父殿は「わかった」とうなづいた。
わたしは急いで着替え、親父殿の後ろ50mくらいをついて歩く。
どうやら地元の駅を目指して歩いているようだ。
ウチは駅まで徒歩25分くらいかかるが、親父殿は立ち止まることもなく歩き続ける。
途中で自転車に乗った警察官とすれ違うが、とくに止められることもなかった。
駅に着くと当然だが入り口のシャッターが降りている。
親父殿は困惑した様子でシャッターをさすったり、バッグから取り出した財布を押し付けたりしている。
しばらくすると諦めたのか、財布を手にしたまま立ち尽くしている。
すると近くで飲んでいたのか、酔っぱらった3人グループが親父殿に近づいてきた。
さすがにこれ以上は危険と思い、すかさず親父殿に声をかける。
「そろそろ一緒に家に帰る?」とわたしが言うと、親父殿はうなづき、名残惜しそうにその場を後にした。
お互い無言のまま家に戻ると、親父殿は少し安心したようで着替えることもなく布団に潜った。
わたしはそのままリビングでしばらく過ごし、親父殿が眠ったことを確認してからベッドに戻った。
眠りに落ちるまでの間、鍵を増やすなどの対策を考えた。