「進行を止めたい」その気持ち、よくわかります-父と歩いた“脳にいい”日々
認知症って、一度始まるとどうしようもないって思ってしまいますよね。
わたしも最初はそうでした。父が診断を受けたとき、医師から「完全に止めることはできない」と言われ、正直、目の前が真っ暗になりました。
でも、「進行を遅らせることはできる」とも言われたんです。
そこから、わたしと父の“脳の健康”を意識した日々が始まりました。
■ できること、まだまだあるんですよね
最初に取り組んだのは「生活のリズムを整えること」でした。
朝はできるだけ同じ時間に起きて、カーテンを開けて光を浴びる。
朝ごはんは一緒に食べる。
「そんなことで変わるのか?」と思っていたんですが、これが案外、父の表情を穏やかにしてくれるんですよね。
認知症は脳の病気ですけど、心や生活とつながっているんだなぁと、実感することが増えました。
■ 「脳トレ」って難しく考えなくてもいい
“脳を使うことが大事”と聞いて、最初はクロスワードや計算ドリルを用意したんですが、父はすぐに飽きてしまって…。
興味がないと続かないんです。
それならと、父が好きだった“昔の演歌”を一緒に口ずさんだり、「今日は昭和何年?」とわざと質問してみたり、新聞の天気欄を指さして「東京は晴れだな」と声に出して読んだり。
そんな“ちょっとした刺激”が、実はいいリハビリになるんですよね。
「脳トレ」って、特別な道具や教材がなくても、日常の中でできるんです。
■ 食事と運動、“あなどれない2本柱”
食事も意識するようになりました。
といっても、高級なサプリを買ったりはしていません。
野菜を多めに、魚を週に何回か、味付けを薄めにして…。
そんな基本的なことで十分なんです。
父は甘いものが好きだったので、うまく付き合うのが大変でしたが、「今日はバナナにしようか」なんて声をかけながら、少しずつ習慣を整えていきました。
あと、運動ですね。
やっぱり体を動かすと、表情も明るくなるんですよ。
近所を一緒に散歩したり、家の中で足踏み運動をしたり。
「ちょっと動く」だけでも、脳にいい刺激になると聞いて、わたし自身も一緒に動くようにしていました。
■ 人と話すって、こんなに大事なんですね
父が元気だったころは、近所の人とよく世間話していたんですが、認知症が進んでくると、それも減っていきました。
だから、わたしはできるだけ会話を増やすように心がけました。
といっても、大した話ではありません。
「今日は寒いね」
「ごはんおいしかった?」
「昔の○○さん、覚えてる?」
そんな何気ない会話が、父の“考える力”を保つ助けになると実感しました。
会話って、頭も心も使いますもんね。
父と笑いながら話す時間が、わたしにとっても癒しでした。
■ 「焦らなくていい」って、自分にも言い聞かせました
認知症の進行を少しでも遅らせたい、って気持ち、すごくよくわかります。
でも、その思いが強すぎると、うまくいかない日がものすごくつらく感じるんですよね。
「なんで今日は言葉が出ないんだろう」
「また忘れてる…」
そんな日もあります。
でも、それは“ダメになった”んじゃなくて、“今日はそういう日”なんです。
波があるのが認知症。
だから、焦らず、怒らず、ゆっくり見守ること。
自分にそう言い聞かせる日々でした。
■ 最後に:できることは、まだたくさんある
父との日々の中で、「もう無理だ」と思うこともたくさんありました。
でも、生活のちょっとしたことが、確かに父の表情や様子を変えてくれたことも事実です。
認知症になっても、何もかもを諦める必要はない。
できることは、まだたくさんある。
そう気づけたことが、わたしにとっては大きな学びでした。
完璧を目指すと疲れてしまう。
だからこそ、できる範囲で、できることを少しずつ。
それでいいと、わたしは思います。