父が怒りっぽくなった
このところ、やたらと親父殿が怒りっぽい。
些細なことで怒るのだ。
例えば、朝ごはんを食べさせようとしても「いやだ!」と声を荒げる。
トイレに行きたくないかたずねただけで「知らない!」と怒鳴る。
一つひとつは小さな出来事だけど、それが一日に何度も起こるとなると、こちらの心も摩耗する。
何をしても怒る。何もしなくても怒る。
親父殿は、わたしが何か手助けをしようとすればするほど不機嫌になる。
「自分でできる!」と怒鳴ったかと思えば、何もできずに途中で止まってしまう。
それを見てわたしが助けに入ると、「オレのやり方に口出すな!」とまた怒る。
正直、介助するのが本当に大変だ。
不機嫌で協力的ではない。
それでも投げ出すわけにはいかない。ここで投げ出すと後で自分がもっと大変になる。
でも、限界は確実に近づいていた。
そんなある日、かかりつけの心療内科で「抑肝散(よくかんさん)」という漢方を勧められた。
医師いわく、「怒りっぽさや興奮が落ち着くことがある」とのこと。
正直なところ、「漢方でそんなに変わるものかな」と半信半疑だった。
だけど、わらにもすがる思いで処方してもらった。
「こんな苦いもの飲めるか!(バシャーン)」
結果--親父殿、見事に拒否。
テーブルの上は抑肝散と水で大変なことになってしまった。
よほど気にくわなかったのか、すごい目つきでわたしを睨みつけている。
ここでさすがにわたしもキレてしまい、「ふざけんな!」と怒鳴ってしまった。
もはや親父殿に抑肝散を飲ませるよりわたしが飲んだ方がいいのではないかとすら思った。
それでも、何とか工夫して、少しずつお茶に混ぜたりゼリーに混ぜたり。
本当は水や白湯で飲ませるべきなのだが、そうも言ってられない状況だ。
調べたところ、施設などではそのように飲ませているところもあるらしい。
いろんな方法を試して、やっと習慣として飲んでくれるようになったのは、始めてから2週間後くらいだったと思う。
少しずつ、静かに変わり始めた
漢方を飲み続けるうちに、親父殿の“怒り”は、少しずつだけど確かに落ち着いてきた。
怒鳴る頻度が減り、無言での抵抗が増えた。
たとえ怒鳴っても落ち着くまでの時間が短くなったのは明らかだった。
本人が自分で気づいているかどうかはわからないけど、わたしにとっては大きな変化だ。
“叱る”より、“逃がす”ほうがいいのかもしれない。
この経験で気づいたのは、怒りの感情に真っ向から向き合おうとしすぎると、お互いが疲弊するということ。
正面から叱っても意味がない。火に油を注ぐだけだった。
それよりも、怒りのきっかけをそっと避けてみたり、親父殿の注意をそらしてみたり。
そして、薬や漢方の力も素直に借りる。
「わたしがなんとかしなきゃ」というプレッシャーから少し離れることで、ようやく少しだけ気持ちが軽くなった気がする。
親父殿が怒らなくなる日は、たぶん来ない。
だけど、「怒りに振り回されすぎない方法」は、少しずつ見つけていける気がしている。
完璧な介護なんて、ない。
できる範囲で。自分も壊れないように。--そう思って、今日も抑肝散をそっとゼリーに混ぜる。
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