「墓じまいってどうやるの?」-認知症の親から墓を継承して思うこと
「お墓、どうするの?」
父の介護が始まって数か月、そんな話題がふと出たのは、近くの親戚に父の状況を話をしていたときでした。
わたしの父は70代半ばでアルツハイマー型認知症と診断されました。
最初は、食事やトイレの世話、通院の付き添いなど、目の前のことに追われる毎日。
でも、少しずつ介護に慣れてくると、ふと頭をよぎるようになったのが「父が元気なうちにやっておくべきこと」でした。
そのひとつが、お墓のことです。
父から突然の話題
まだ親父殿が認知症と診断される少し前のこと。
ある日、父が何気なく言いました。
「墓の名義を変更してくれないか」
我が家のお墓は高尾山にほど近い場所で、家から車で片道1.5時間ほどの距離にあります。
わたしの祖父が建墓し、祖父が他界した際に父が継承しました。
わたしの祖父母、叔父、そして母もそのお墓に眠っています。
父がその話をしたのも、きっと祖父が他界したときに苦労した記憶がふと蘇ったのかもしれません。
そしていまはわたしがお墓を継承しています。
墓じまいって、実はけっこう大変なんです
その親戚は父の姉家族で、わたしがお墓を継承していることは知っています。
父は5人兄弟で、姉、父、弟、妹、弟です。
なので、祖父母(父のお姉さんからみると両親)も眠っているお墓のことが気になったのだと思います。
わたしは未婚でなので、つぎの世代にお墓を継承することはできません。
その後、わたしは「墓じまい」について調べ始めました。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは既存のお墓を撤去して、遺骨を別の場所に移すことを指します。
「ただお墓を片付けるだけでしょ?」って思いますよね。
でも、実際にはもっと複雑でした。
まず、お墓のあるお寺や霊園の管理者に「改葬(かいそう)」の意思を伝える必要があります。
そこで改葬許可証を出してもらい、それを持って、新しい納骨先(たとえば合祀墓や納骨堂)に遺骨を移すんです。
しかも、お墓を撤去する費用、お寺へのお布施、新しい納骨先の費用…と、思っていたよりずっとお金がかかる。
ざっくり見積もっても、数十万円は必要でした。
ただすんなりお金で解決できることばかりではありません。
檀家だったりすると、離檀で寺院側とトラブルになることもあるようです。
放っておくと大変なことに…
実は、墓じまいを考えたきっかけには、その親戚にある話を聞いたことも大きかったんです。
「無縁墓(むえんばか)って知ってる?」と、親戚に聞かれました。
聞けば、長期間誰もお参りや管理をしていないお墓は、無縁墓として扱われ、最悪の場合は管理者側で撤去されてしまうそうなんです。
そうなると、遺骨は合同の無縁仏として扱われ、先祖の供養もできなくなってしまう。
それに加えて、過去に払っていなかった管理費や、撤去費用などをまとめて請求されるケースもあると聞いて、背筋が寒くなりました。
姉家族はテレビか雑誌かでその話を耳にして、トラブルになるのではないかと心配していたようです。
「もうちょっと早く知っていれば…」というトラブル声が多いというのもあながち大げさでもないのかもしれません。
親族で温度差があるのも当たり前
墓じまいについて父の妹家族にも相談しました。
でも、ここでぶつかったのが“温度差”でした。
「今すぐじゃなくてもいいんじゃないか」
「お金もかかるし、そのときに考えよう」
気持ちはわかります。
でも、介護を担っている立場としては、あまり先延ばしにできる話ではありませんでした。
介護のことも、墓じまいのことも、同じように「誰かが担う」必要があるんですよね。
そして、その誰かはわたしなのですから。
気持ちの整理にもつながる
最終的に親戚一同に話をし、わたしは墓じまいの準備を進めることにしました。
といってもすぐにどうこうではありません。
父が亡くなったらいまのお墓で母と一緒に眠ってもらおうと思っています。
ただその先のことを決めておくことにしたのです。
改葬先は、自宅から近い永代供養の合祀墓に決めました。
手を合わせに行ける距離にある、というだけで、わたしにとっては大きな安心感でした。
そして何より、亡くなってから慌てて手配するよりも、今、心の整理とともに進められるのがよかったと感じています。
まとめ:未来の自分と家族のために
「墓じまい」は、何となく避けたくなる話題かもしれません。
でも、介護と同じで、向き合うことで見えてくることがあります。
今はまだ親が元気でも、いずれ訪れる“その時”に備えておくことは、決して冷たいことではありません。
むしろ、未来の自分とお墓を守るための、大切な準備だと思っています。
わたしと同じように、介護に携わっている方、お墓のことで悩んでいる方。
どうかひとりで抱え込まず、少しずつでも、動き出してみてください。
きっと、その一歩が、大きな安心につながると思いますよ。